小鰯(こいわし)の刺身と祖母の思い出|広島でしか味わえない地元の味

小鰯の刺身の画像 昭和の暮らし

【この記事でわかること】
・小鰯(カタクチイワシ)の刺身が広島の隠れ名物である理由
・地元でしか刺身として食べられない背景
・行商さんと祖母との思い出
・指だけで捌く小鰯の下処理
・広島に来たら食べてほしい小鰯料理


広島名物と言えば?意外と知られていない“地元限定の味”

 広島県の名物と言えば、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。
 牡蠣、もみじ饅頭、レモン、八天堂のクリームパン…。
 これらが全国的に“広島名物”として浸透しているのは、知名度もあるけれど「贈答品・お土産として流通しやすい」ことも大きい。

小鰯(こいわし)の刺身

 「牡蠣は無理だろ生モノだし」と思われるかもしれないが牡蠣は立派な贈答品だ。殻付きのまま一斗缶で発送することができる。
 八天堂のクリームパンも冷蔵必須なのに全国で購入できるのは、企業努力のたまものだと思う。

 しかしながら、現代の輸送技術をもってしても未だに流通がネックになり、“県外では広く知られていない広島の名物”が存在する。

 その代表が 小鰯(こいわし)の刺身 だ。

 あまりにも傷みやすいため県外に出回りにくく、地元の人間ですら「小鰯は刺身で食べるもの」と説明すると驚かれることがある。

 今日はこの“小さな広島名物”と、私の祖母との思い出を少し綴りたい。

「七回洗えば鯛の味」?小鰯が愛される理由

 広島には「小鰯を七回洗えば鯛の味」という有名な格言がある。 これは、「何度も冷水で洗うことで脂がほどよく締まり、高級魚である鯛にも負けないほど美味しくなる」という意味だ。

 実際に、丁寧に洗った小鰯の刺身は、口の中でとろけるような脂の甘みと、青魚特有の力強い旨味が同居している。
 さらに、小鰯はDHAやEPA、カルシウムも豊富だ。美味しくて体にも良い、まさに瀬戸内からの贈り物といえる。

子供の味覚と小鰯の刺身

行商さんが届けてくれた新鮮な魚

 今でこそ、小鰯の刺身は広島のスーパーで普通に見かけるが、私が子供のころはスーパーでは見た覚えがない。
 理由は単純で、我が家は 魚の行商さん から小鰯を買っていたからだ。

 食卓には煮付けや塩焼きなどの魚料理が頻繁に並んでいた。
 親戚のおじさんが早朝に掘ってきたアサリを届けてくれることもあった。

 いずれにしても当時の食卓には“新鮮”が当たり前のように存在していた。

子供だった私は魚の美味しさがわからなかった

 しかし、残念ながら当時の私は魚が少し苦手だった。
 煮付けも刺身も、その価値がよく分からなかった。
 ましてや刺身なんて美味さがさっぱりわからなかった。更に薬味のショウガは苦いし、青ネギの小口切りはツンツンするし。
 だから子供時分に食べても、「これは新鮮な魚介だね!」なんて感想は出てこないのだ。
 眉間に皺を寄せて食べていたのだから申し訳ない。もっと味わっておけばよかった。
 おばあちゃん、本当にごめん。

わたし
わたし

でも今は、スーパーで小鰯の刺身を見かけると迷わず買うんよ!
あのころの味を思い出すためにね。


小鰯の刺身、食べたことあります?

いりこになる前の姿を“刺身で”味わえる贅沢

 さて、小鰯の話に戻ろう。
 冒頭でも言ったとおり、その傷みやすさ故に刺身の状態で食べられるのは、基本的に産地に近いごく一部の地域だけ。
 県外へ出る頃には「いりこ(煮干し)」の姿になっている。そう、あの出汁を取るいりこですよ!
 あの、“いりこになる前”の小鰯を刺身で食べるという贅沢さ、ぜひ味わってほしい。

 脂がよく乗り、身に旨味が詰まっていて、薬味(みょうが・ネギ・ショウガ)を添えて醤油で食べるとその相性は抜群。
 天ぷらにしてもまた美味しい。

 小鰯の特徴や広島での食文化については、広島県公式サイト「徹底解剖!ひろしまラボ」さんが詳しいので、興味のある方はぜひ参照してほしい。


祖母の小鰯の捌き方 ― 指だけで仕上げる職人技

祖母の小鰯の捌き方 ― なぜ「指だけ」で仕上げるのか

 子供時代、行商さんから買った大量の小鰯を祖母が捌いていた。
 氷の中に入れられた小鰯を、祖母は年季の入ったまな板の上で、包丁を使わず指だけで捌いていた。

 小鰯の頭を軽くひねって落とし、水道の細い流水で腹を洗い、
 親指で身を開くようにして背骨を外す――流れるような手際のよさだったと記憶している。
 そうだ、あの頃はクーラーすらないのだ。夏の暑さと小鰯の足の速さを思えばモタモタしていられない。

 大量の氷と一緒に大きなボールに入った状態で待機している小鰯たち。
 北向きの台所。窓から差し込む薄い光と吊ってある裸電球の灯りの下。
 蛇口から流れ続ける細い水流。満ちるのは海の幸独特の香りと、ちくたくと柱時計が秒を刻む音。

 祖母の指は休みなく動いている。

 私は自家製の梅干しをつまみ食いしつつ、私は祖母の腰当たりの位置からつま先立ちして顔を出し、その作業を眺めていた。(【関連記事】祖母の梅干しと梅シロップ作り|種の中身「天神様」の注意点も
 あの薄暗く、何故か落ち着く空間を、今でもよく思い出す。

小鰯を捌く祖母とそれを見守る孫の図
小鰯を捌く祖母とそれを見守る孫の図

 それはそれとして、今ネット上で小鰯の捌き方を探しても大体、スプーンかPPバンド(荷造りで使うやつ)を使おうって書いてあるのに、確かに記憶の中の祖母は指だけで捌いていたはず。

 なぜ、祖母は包丁を使わなかったのだろうか。

 小鰯は身が非常に柔らかく、包丁を使うよりも指の腹で優しく捌く方が、身を傷めずに骨だけを綺麗に外せるからだ。
 また、大量の魚をスピード感を持って処理する必要があったため、道具を持ち替える手間を省く「生活の知恵」でもあったのだろう。

 調べてみると、指で捌く方法は実際に存在していて、「やまでらくみこ」さんのレシピでも詳しい手順が紹介されている。
 地元で小鰯が手に入る人は、ぜひ挑戦してみてほしい。
 私も近々、祖母を思い出しながら指捌きに挑戦してみるつもりだ。

(もちろんアニサキスには注意!)


広島に来たら食べてほしい小鰯料理

 小鰯の旬は 6〜8 月と言われるが、この記事を書いている 11 月にもスーパーで見かける。
 最近はパックの状態で既に捌いてあるものも多く、気軽に楽しめるようになった。
 広島の飲食店にも、小鰯の料理や定食がある率は高い。

 もし広島を訪れる機会があれば、ぜひ以下の料理を味わってほしい。

  1. 小鰯の刺身: 薬味(生姜、ネギ、みょうが)たっぷりで食べるのが広島流。
  2. 小鰯の天ぷら: 揚げたては骨まで柔らかく、ビールとの相性が抜群。
  3. 小鰯の煮付け: 刺身が余った翌日、祖母がよく作ってくれた家庭の味。

 ちなみに、広島市内の居酒屋や食堂であれば、シーズン(6月〜8月がピークだが秋口まで)には多くの店で提供されている。
 こればかりはお土産として持参するわけにはいかない。
 県外ではなかなか味わえない、広島ならではの贅沢だ。

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